中国人高所得者を呼べ!石川・長野両県が仕掛ける異色の誘致作戦
●地方ならではの体験をしたい人が増え変わり始めた“誘致作戦”
日本を訪れる外国人観光客が増え続けている。
訪日外国人旅行者数は、今年11月4日時点ですでに昨年1年間の約2404万人を超え、過去最高を更新している。その中でも中国人は約624万人と最も多く、重要な“市場”であることは間違いない。
そうした日本を訪問する中国人たちは、新たな旅先を求めており、大都市圏以外の地方を訪れ、その場ならではの体験をしてみたいと希望する人たちが増えているようだ。こうしたことを背景に、中国人観光客の“誘致作戦”も次第に変わり始めている。
具体的には、これまでの単純な誘致やアピールから、所得の高い客層に絞って、いかに効果的に情報発信できるかを工夫するようになっている。筆者がインバウンド事業のお手伝いをしている、いくつかの県の動きを見ても、この傾向がはっきりと見て取れる。
例えば、すでに6年間インバウンド事業のお手伝いをしている石川県は、最近、長野県にも声をかけ、中国から弁護士と旅行会社の社長らを招待した。弁護士と旅行会社社長からなる訪日チームは、なんとも異色の組み合わせだ。
●高所得者にアクセスできるキーパーソンを招待
しかもその弁護士は、中国最大の弁護士事務所に所属しているだけではなく、民間企業がもっとも多い浙江省の中小企業関連団体の顧問弁護士でもある。
国境を越えた企業間のM&Aや、投資などの案件を扱う業務が多い。
一方、旅行会社の社長も、大衆を対象にした大手旅行会社ではなく、いわゆる「小衆」を主要客層にする専門旅行会社だ。
不特定多数の人々のことを指す大衆に対し、小衆はその対極にあり、文字通り特殊な需要を持つ少人数の人たちのことを指す。
そうした小衆に客単価40万円の訪日ツアーを販売し、何度も日本に送り込んだり、クルーズの独占販売を請け負ったりした実績を持っている。
つまり、石川県と長野県が招待したのは、中国の高所得者層に対して日常的にアクセスできる立場にいるキーパーソンたちだったというわけだ。
両県の狙いは、そうしたキーパーソンたちに直接来てもらって日本の観光資源に接し、皮膚感覚でその良さを理解してもらおうというもの。
そして、彼らの日常業務を通して、中国の高所得者層に自然な形で伝わっていくことを期待しているのだ。
筆者は、そのキーパーソンたちに同行する形で、能登半島にある輪島や「百万石の町」という美称を持つ金沢、そして長野県の長野、松本、塩尻などの地方都市を訪問した。
彼らは全員、日本語が話せる知日派で、地方の文化や事情にも明るい。だから、彼らが関心を持つポイントがストレートに、招待側の石川県と長野県にも伝わったと思う。
例えば輪島では、輪島塗や九谷焼などの伝統工芸品、特に年代が古い掘り出し物に対して興味を示していたし、人間国宝など伝統工芸の名人にも非常に大きな関心を寄せていた。
深い感銘を受けたためか、旅行会社の社長は視察途中にもかかわらず、その場で送客プランを練り始めた。
そればかりか同行する筆者にまで、これから日本に送り込む中国人観光客に対する講義を依頼したり、SNSを通じて宣伝すべきポイントをレクチャーしたりし始めるなど、かなりの力の入れようだった。
●国内外にかけられデータ通信もできるスマホを無料で貸し出し
今回の視察旅行を通して、もう一つ感心したのは、観光客を受け入れるためのインフラ改善が目立っていたことだ。
例えば長野市では、長野駅と繋がっているホテルメトロポリタン長野に1泊したのだが、客室には「handy」と呼ばれる無料貸し出しのスマートフォンが、フル充電の形で用意されていた。このスマホさえあれば、ホテル滞在期間中は国際・国内電話、そしてデータ通信が無制限かつ無料で利用できるようになっている。もちろん、ホテルの外に持ち出してもいい。
客室のテーブルの引き出しには、インターネットへのアクセスに必要なコードはもちろんのこと、さまざまなメーカーの携帯電話や無線ルーターに対応した充電アダプターなども用意されていて、宿泊客の満足度を高めようという情熱が伝わってきた。
これまで筆者は、日本のホテルや旅館におけるネット環境の整備の遅れに対し、何度も厳しい批判を浴びせてきたが、今回はようやく褒めていい宿泊先に出合い、嬉しく思っている。
●国際空港がない長野が中国人宿泊者数で石川を上回る
一方で、新しい課題も浮き彫りになった。
人口約115万人、面積約4186平方キロメートルの石川県は、2016年中国人延べ宿泊者数は6万2000人(全国24位)となっている。人口約276万人、面積約1万3562平方キロメートルの長野県は、同11万3000人(全国18位)だ。
確かに両県の人口規模や面積などから考えれば、石川県は健闘しているようにも見える。しかし石川県は、上海に直行便を飛ばす小松空港を持っている。それに対し長野県は、松本空港はあるものの国内便しかなく、外国人観光客の誘致には役立っていない。にもかかわらず、長野県が石川県を突き離している理由は、いったいどこにあるのだろうか。
こうした問題の究明はまさに新しい課題と言えよう。
●ソース
http://diamond.jp/articles/-/150613
以上